SalesforceのAI Einsteinとは?

Salesforce EinsteinはCRM(Customer Relationship Management:顧客管理)に特化したAIです。 「20世紀最高の天才物理学者」アルバート・アインシュタイン博士からその名をとったEinsteinは「複雑なことをシンプルにする」という博士の語録に由来するといいます。

Einsteinの特徴は、複雑で時間のかかる手続きが必要だったAIの利用をSalesforceの利用者向けに極力単純化したところにあります。コーディングでアプリを作る必要がなく、利用業務や目的に合わせてあらかじめ組み立てられたモジュールが提供されており、これを使うことでAIが利用できるのです。

この記事では、Einsteinの機能やその利用方法を解説し、今後の展望について考えます。

SalesforceのAI Einsteinの機能

Salesforce Einstein の機能には、蓄積された商談、購入履歴、メールなどのデータを分析して、簡単なクリック操作で顧客に対してどのように働きかければよいかの気づきを得ることのできる機能が備わっています。また、それに加えて、自然言語処理を用いたチャットでの自動的な会話や、画像認識機能に至るまで用意されています。順番に見ていきましょう。

機械学習による予測分析

機械学習による予測分析には次の3つの機能があります。

  • Einstein Discovery

Salesforceの中に入力されたすべてのデータをもとに、簡単な操作で『インサイト』を得ることができます。インサイトとは「気づき」のことですが、通常、蓄積されたデータから、次のアクションのための気づきを得る作業はデータ分析の作業者が時間をかけたEXCEL作業を経なければ難しいでしょう。Salesforce EinsteinはAIによって時間をかけずにインサイトを得ることができ、根拠となるグラフなど、説明資料も生成・出力することができます。

  • Einstein予測ビルダー

Salesforceに入っているデータを元にしていろいろな可能性をスコアリングする機能です。顧客離脱の可能性、商談が成立する可能性、再度購入する可能性など、購買履歴はもちろん、顧客の属性などからも予測を立ててくれます。予測ビルダーを使えばどのような顧客に対して優先的に働きかけていけばよいか判断ができるでしょう。

  • Einstein Next Best Action

“Next Best Action”というその名の通り、次に起こすべきベストな行動はなにかということを指定したタブに表示してくれる機能です。たとえば、『フォローアップ電話おすすめします』などのメッセージです。実はこの機能自体は機械学習やディープラーニングは使っておらず、前段で紹介した予測ビルダーの判断結果を用いています。

どのような場合に、どのような言葉で“Next Best Action”を表示するかについての設定も簡単にできるようになっています。

自然言語処理による自動化

Einsteinは、自然言語処理を応用し顧客の質問に自動応答したり、SNS上に流れる自社製品やブランドの書き込みを特定したりできます。たとえば、SNS上に流れる画像やテキストから自社商品の話題がどのように扱われているかなどをグラフに表すなどの処理が可能となります。

  • Einstein Language

メールや問い合わせの書き込みなどから、顧客の感情を理解し、自動的にルーティングして、ワークフローを簡略化する機能です。テキストから顧客の意図や感情を読み取ることで、ネガティブな影響を防ぎ、ポジティブな反応を販促に生かすことにつなげます。

  • Einstein Bots

問い合わせに対するカスタマーサポートを効率化して生産性を向上させることは、多くの営業部門で課題となっています。

カスタマーサポートがチャットで行われる機会が多くなった現在では、最初に問い合わせに答えるのはチャットボットです。Einstein Botsは一般的なよくある問い合わせに対して、自然言語処理によって自然な答えを用意し、問い合わせの内容によって案件を振り分けて、必要に応じて担当者に引き継ぐことができます。

画像分析が可能

画像認識のAPIを組み込むことが可能です。たとえば、棚に並んだ商品の写真を撮影して自社商品が何個並んでいるかを認識させたり、返却されたレンタカーの損傷の有無を撮影した写真から判断させたりすることが可能です。画像認識はAIの得意とする分野であり、Salesforceに組み込むことで様々な用途に応用できます。

SalesforceのAI Einsteinの利用方法

このように、非常に便利なSalesforce Einsteinですが、導入する方法と事例についてすこしふれておきます。

SalesforceのAI Einsteinの導入方法

まず、Salesforce Einsteinがどのようなものなのかイメージをつかむために動画を視聴されることをお勧めします。つぎにTrailheadというSalesforceの学習用サイトで、導入方法についてだれでも無料で学ぶことができます。

なお、Salesforce Einsteinは営業担当者に相談する前に自社で解決すべき課題は何かについて明確化することが重要です。

SalesforceのAI Einsteinの利用事例

Salesforce Einsteinが得意とすることの一つに、自然言語処理を利用したカスタマーサポートの自動化があります。この機能一つを使うだけでも働き方改革に貢献できたという事例です。

ある大手医療グループでは「顧客対応の標準化、効率化」が大きな課題となっていました。医療機関では顧客からの問い合わせや質問の内容は込み入ったものが多く、均一の対応が難しかったのです。こうした課題を解決するために白羽の矢が立ったのがSalesforceでした。

予約、問い合わせ対応にSalesforce(Einstein for Service)を活用し、これらを自動化。込み入った相談が必要な窓口の対面対応に人材を集中させることができました。

SalesforceのAI Einsteinの導入における課題と解決策

Einsteinに限らずSalesforceそのものの導入にも言えることですが、これらの導入で陥りがちな課題をまとめると次の通りです。

  1. 導入目的が「導入そのもの」になっており、途中で何のためにやっているのかわからなくなった。
  2. Einsteinをはじめとする各機能の選別が十分できていない。未活用あるいは過活用。
  3. 現場からの声に流されてしまい「全体のための最適」が失われていく。
  4. システムとアプリが用意できたもののきちんとデータを入力できない。よって全く使えない。
  5. 蓄積されたデータが活用されない。

課題の解決のために必要なこととは、前段で述べたように目的を明確にすることと、営業組織全体の最適性を優先させることです。

SalesforceのAI Einsteinの今後の展望

Salesforce Einsteinは、Salesforceユーザーにとって今後ますます重要性が増していくでしょう。以下に、Einsteinの今後の展望について考えます。

Einstein GPTの登場

2023年3月9日、SalesforceはEinstein GPTのリリースを発表しました。これは、CRMのための生成AIテクノロジーとしては世界初のものとなります。

Salesforceには独自のAI技術もありますが、OpenAIをはじめとする複数のパートナーによるAI技術も統合し、Salesforce Data Cloudからのリアルタイムデータ、企業の顧客データを取り込んで、学習します。

Einstein GPTとOpenAIのAIモデルに結びつけるなどすれば、Salesforce CRM内で使用できるようになります。結果、営業担当が各顧客に合わせたメールを迅速に生成できるようになったり、マーケティング担当がキャンペーン反応率をあげるためのターゲットを絞りこんだコンテンツを生成したりすることができるようになるといいます。

SalesforceのCRM上でAIが使えるようになったことは、今後のSFA、CRMの世界の大きな分岐点が来たといえるでしょう。今後この機能を各企業がどのように使いこなしていくのか非常に注目されます。

まとめ

Salesforce EinsteinはAIですが、すべてをお任せするというわけではなく、あくまで人間の判断や作業を補佐しようというものです。これまで人間が行っていたことが少しずつAIに置き換わっていけばいくほど、人間の作業工数は減っていき、その分、生産性は上がっていきます。

少子化で生産性向上と働き方改革が叫ばれる近年では、Salesforce Einsteinを使わない手はないのではないかと思えるほどですし、Einstein GPTの登場など今後の発展にも目が離せません。